画像下治療

画像下治療

IVR(Interventional Radiology)とは

IVRは超音波やX線透視、CT、血管撮影装置などの画像ガイド下に目的とする血管や病変、臓器をリアルタイムで確認しながら、カテーテルや穿刺針などを用いて病気の治療や診断を行うもので、日本語では画像下治療と称されます。外科手術のような大きな切開を必要とせず、カテーテルや針が通る程度の小さな傷で治療が可能であるため、低侵襲であり、多くは局所麻酔下にて行われます。当科では他診療科と連携して、様々なIVR治療を行っており、下記に示す対象疾患を中心として、年間4,100件以上の治療・検査を行っています。

肝動脈化学塞栓療法(TACE|transarterial chemoembolization)

肝動脈化学塞栓療法

肝細胞癌は我が国の原発性肝悪性腫瘍の約95%以上を占め、治療には外科的切除や抗癌剤治療、ラジオ波焼灼術などがあります。TACEは肝機能が保たれている、ないしは軽度低下している患者(Child-Pugh分類A・B)で複数の肝細胞癌病変がある場合の標準治療とされています。肝細胞癌は肝炎や肝硬変で肝機能が低下した患者で生じやすくしばしば多発することから、TACEは肝細胞癌の進行を抑制する上で重要な役割があります。
当科では肝機能低下や侵襲を極力小さくするため、可能な限り病変に近い血管で塞栓することに加え、抗癌剤の混合効果の高いデバイスの使用や混合方法の改善により治療効果を高め、癌治療に貢献しています。また病変の広がりが広範である場合や、肝機能が低下している場合など、カテーテルから抗癌剤投与のみ行い、肝機能を温存しながら癌の進行を遅らせる治療(肝動注化学療法)を行う事もあります。

進行上顎洞癌に対する超選択的動注化学療法併用放射線療法(RADPLAT)

RADPLAT

上顎洞癌は比較的進行するまで症状が出にくく、発見時には周囲に浸潤している事が多いとされています。一方で遠隔転移やリンパ節転移が少なく、局所治療が可能なケースが多い疾患でもあります。進行上顎洞癌の根治的治療は摘出術ですが、術後の容姿変形や機能障害という問題があります。全身化学療法併用放射線療法では根治が難しく生命予後が不良です。それらの問題を解決するため、当科では選択的動注化学療法併用放射線治療を施行しています。3D血管撮影やコーンビームCTで全ての腫瘍血管をmappingにより詳細に解析、病変のみをターゲットとして過不足なく抗がん剤(シスプラチン)注入を行っています。7週間しっかり本治療を完遂された場合、腫瘍はほぼ消失し再発なく外来にて観察されております。

腹部内臓動脈瘤

腹部内臓動脈瘤

内臓動脈瘤は動脈硬化や何らかの外傷などといった原因で動脈が異常に拡張したもので、脾動脈瘤(脾臓の動脈)の頻度が最も高く、その他には腎動脈瘤、肝動脈瘤などがあります。大きさが2~3cm以上であることもしくは有症状では一般的に治療の適応となります。近年は血管内治療が進歩し、カテーテルを用いて瘤内を金属コイルで塞栓する、もしくは動脈瘤の母血管にステント挿入し、瘤内への血流を消失させるなどの治療が行われています。

血管奇形(動静脈奇形・静脈奇形)

血管奇形

脈管/血管奇形は動脈・静脈・毛細血管・リンパ管のいずれかもしくは複数の先天性形成不全による疾患です。当科では形成外科と連携し、各病型に応じて適切かつ安全で効果的な治療に取り組んでいます。静脈奇形では超音波装置を用いて穿刺し、病変のサイズや形状に応じて適切な量の硬化剤(オルダミンやエタノールなど)を病変内に注入し、硬化させます。また、動静脈奇形の場合にはカテーテルを動脈と静脈が直接吻合を介している部位まで進め、金属コイルや硬化剤などを用いて塞栓を行う場合もあります。

動脈的塞栓術(止血術一般・AMLなど)

動脈的塞栓術

鼠径部や上肢の動脈から局所麻酔下にカテーテルを目的の血管に挿入(seldinger法)し、液体塞栓物質やコイルなどの固形塞栓物質を投与して動脈を塞栓します。止血目的の他、出血のリスクのある腫瘍の術前出血予防や腎臓の血管筋脂肪腫の破裂予防での塞栓なども対象となります。また当科ではバルーン付きカテーテルを用いて狭窄・閉塞した血管を拡張させる治療を、特に血液透析患者のシャント狭窄/閉塞例を対象として多く行っています。

タイプⅡエンドリーク

タイプⅡエンドリーク

エンドリークとは、大動脈瘤に対するステントグラフト留置術後に、ステントグラフトと動脈瘤の間に血流が発生した状態を指します。原因により、さまざまなエンドリークに分類され、中でもタイプⅠやタイプⅢでは可及的速やかな治療を要します。タイプⅡエンドリークは、大動脈から分枝する細い動脈(腰動脈など)からの逆流によって発生した血流再開であり、低流速のため、ほとんどが未治療のまま経過観察となります。しかし、血流再開により大動脈瘤が増大する場合には治療適応となります。当科では血管外科とタイアップし、タイプⅡエンドリークに対する低侵襲治療(局所麻酔下)を行なっております。

腎腫瘍に対する経皮的凍結療法

小径腎癌に対する画像ガイド下経皮的凍結治療は2011年から保険適応となりましたが、東京慈恵会医科大学柏病院は保険収載のため2000年代より治験を担当しました。現在でも豊富な症例数と経験をもとに本治療のトップランナーとして、難症例を含めた多くの患者の治療にあたっています。ステージT1(7cm以下)、特にステージT1a(4cm以下)の腎癌で転移を認めない患者が対象になり、片腎の場合や腎機能障害(CKD)のある患者においても適応となります。また両側多発腎癌症例であっても複数回の治療でも腎機能の温存可能であるため、Von-Hippel Lindau病をはじめとした遺伝性腎癌症候群など多発腎癌例に適した治療です。全身麻酔を使用せず、患者に負担の少ない治療であり、高齢者や脳血管疾患、心疾患、呼吸器疾患など全身麻酔が困難な併存疾患のある患者にも適した治療です。

具体的には、病変や針の位置をCTで確認しながら、皮膚表面の局所麻酔を行った箇所から専用の細径針(直径1.5mmの凍結針)を病変に直接穿刺して、-20℃以下の超低温で病変を凍結し、腫瘍細胞を壊死させます。病変の位置や大きさによって、病変を見やすくする為に治療の数日前にカテーテル治療(腎動脈塞栓術)を併用することもあります。詳しくは下記のURLより説明動画をご覧ください。

リンパ系疾患

リンパ系疾患

リンパ浮腫、リンパ漏、リンパ管奇形などが知られており、リンパ漏とリンパ管奇形はIVRの治療対象となり得ます。慈恵医大はリンパ系の治療が可能な限られた施設の一つであり、当科IVRグループが総力を挙げて治療にあたっています。近年では公的研究費を獲得して基礎的研究も行っています。

1.リンパ漏

リンパ液がリンパ管の外に漏れてしまう状態であり、長期間持続すれば栄養状態悪化や免疫機能低下につながります。リンパ節郭清を伴う悪性腫瘍の手術後合併症としての発生が多く、先天性心疾患の手術後合併症としても知られています。IVRでは、主に鼠径リンパ節を細径針で穿刺し、造影剤をリンパ節内に注入するリンパ管造影を行い、まず漏出部位を同定します。その後、漏出部位に応じて適切なアプローチ方法と塞栓物質を用いることでリンパ漏を停止させる治療を行っています。時として難治性で繰り返し治療を要する事もありますが、主診療科の医師と連携して適切かつ安全な治療を提供できるよう努めています。

2.リンパ管奇形(リンパ管腫)

頸部や腋窩部発生が多いリンパ液の溜まりで、大部分は生まれつき存在すると考えられています。静脈奇形(血管腫)と同じ脈管奇形の一つです。発生部位や大きさによって、機能上・外見上の問題となるため、症状に応じて治療が行われます。治療の選択肢として、外科的治療・硬化療法・内科的治療が挙げられ、当科IVRグループが硬化療法を担当しています。

硬化療法は、局所麻酔下に病変を穿刺して硬化薬剤を注入する事により病変の縮小を狙う治療方法です。一度の治療のみで十分に縮小しない場合や治療後に再増大してしまった場合、繰り返し硬化療法が行われる事があります。

画像ガイド下生検およびドレナージ術

画像ガイド下生検およびドレナージ術

局所麻酔下に、CTやエコーなどを用いてリアルタイムの画像ガイド下に、目的の腫瘍や臓器に生検針を穿刺し、生検を行っています。また他診療科と連携し、膿瘍や嚢胞、胸水や腹水などに対して、画像ガイド下にドレーンの挿入・ドレナージ術も行っています。

中心静脈カテーテル留置術

中心静脈カテーテル留置術

当科では、患者や術者の被ばくを軽減する目的で、X線透視を用いずにカテーテル先端の位置や進行方向が可視化できるSherlock 3CG (株式会社メディコン)という機器を用いたPICC挿入を積極的に施行しており、最小限の被ばくで中心静脈カテーテル留置を行うことが可能です。また外来通院で化学療法を行う場合や、長期間にわたる高カロリー輸液が必要である患者には、中心静脈ポートの造設も行っています。

STAFF スタッフ紹介

蘆田 浩一HIROKAZU ASHIDA
大内 厚太郎KOTARO OUCHI
道本 顕吉(留学中)KENKICHI MICHIMOTO
五味 拓TAKU GOMI
木佐木 俊輔SHUNSUKE KISAKI